第74回日書展受賞者 佐伯司朗先生

サンスター国際賞受賞 佐伯司朗先生インタビュー

受賞作

さだまさしさんの歌詞「誓いの言葉」の中から書かれた作品

今回のさだまさしさんの詩はどのようにして選ばれたのですか?

令和2年である2020年はオリンピック・パラリンピックが東京で開催される年です。昭和は戦争、平成は災害が多い時代という印象でしたが、令和は夢を持った社会になってほしいという思いを込めて書きました。

今回の作品でのポイントは?

受賞しようという気で書いたのではなく、自然体で書いたことです。作品を見た人に、この詩を読んでいただけることを心掛けて書きました。
作品を書く時はいつも、上手く書こうとか、ここが見せ場とかは考えません。ただ、心をこめて一文字一文字を紙に刻みつける様に書きます。

作品はどのようにして書き上げられるのですか?

書く前に最初に出来上がりのイメージを頭の中で思い描きます。そこで、大きくする文字や、墨の濃淡などイメージを作ります。その後、半紙サイズにミニサンプルを書いたうえで、清書の紙に書くというステップです。ですから、清書の紙に書くのは、そんなに多くはありません。もちろん1枚1枚時間はかけています。今回の作品も2種類書いて、それぞれ6枚ずつくらい書きました。

どのくらいの日数をかけて書き上げるのでしょうか?

書く時は1日で集中して書き上げます。先ほどお話しした、イメージを作る構想の方が時間がかかるかもしれませんね。書き始めると後はインスピレーションです。イメージしていた通りの書き方ではないほうが良いと思ったらそのように、その時良いと思うままに書きます。

先生は宮内庁文書専門員としても活躍されていると伺っております。そのお仕事も作品作りに影響しているのでしょうか?

そうですね。天皇陛下のおことばの揮毫や国事行為である国会の開会のおことばを揮毫するお仕事をしています。特に天皇陛下のご親書の揮毫の際は特別な紙に書きますので、失敗したからといって簡単に別の紙にというわけにはいきませんから、浄書1回勝負となります。また、改ざん防止の目的から、天地(上下)に余白を開けず、きれいに書ききる必要があります。ですから、作品でも自然に天地が揃ってしまっている作品が多いです。

日書展で席上揮毫をする佐伯先生

日書展受賞者の席上揮毫の際、いつも先生が使用する筆とは違う筆と墨で書かれていらっしゃいましたね?

こだわりの筆や墨で席上揮毫をされる先生もいらっしゃいますが、様々な人がいて良いと思い、あえて違う筆にしました。私にとっては、席上揮毫は皆さんにお見せするパフォーマンスの場です。高価な筆や墨がなくても、席上揮毫を見にきて下さっているお弟子さんや書を勉強している方々が、自分で手に入るような安価なもので、ここまで書けるんだということをお見せしたかったというのと、どこまで書けるだろうというチャレンジの気持ちで試しました。実際には自分の使っている大切な筆は人には貸さないくらい大事にしています。

筆を人に貸さないとは、どのような理由からですか?

他の人が使うと、筆の癖が変わってしまいます。その人の筆づかいの癖、筆にかける圧は人それぞれですので、筆にそれが伝わって癖が変わるので、絶対に大切な筆は人には貸しません。誰かが使ったらすぐわかりますよ。筆へのこだわりは自分のイメージする筆を筆屋さんにお願いしてオリジナルでつくってもらったりもしています。

書は何歳くらいから始めるとよいでしょうか?大人では遅いでしょうか?

大人で遅いことはありません。私の教室には60歳で始める方もいらっしゃいます。やりたいと思った時がやり始める時ではないでしょうか。臨書をするとき、自分を捨て、我をなくす必要があります。自分を捨てることで古典の世界に入り込む。そうしないと身に入りません。そういう意味では、自我が出来上がる前の、子供の頃から始めるのが良いといわれるということだと思います。すべては気持ちの持ちようですね。

先生は、何歳のころから書を始められたのでしょうか?

小学生のころから学校などで書道をして、古典を書いていましたが、本格的に先生についたのは大学入学後です。そこで出会ったのが、師である中島司有(なかじましゆう)先生でした。そこで初めて、漢字だけではなく、近代詩文書、色彩を使った造形作品の世界に触れ、書の道に入っていきました。

色彩を使った造形作品とはどのようなものでしょうか?アートでしょうか?

いえ書です。文字を媒体としていれば全部が書です。
中島先生の代名詞とも言われる作品で、先生は油絵の具を使っていたのですが、作品で表したいイメージの色彩を塗ったものの上に文字を書く造形作品のことです。私の場合は背景をアクリル絵の具で塗ったものの上に文字を書いて、背景に文字を溶け込ませていく加工を加えて仕上げていきます。言葉も奥が深いので、それぞれ色のイメージがあると思います。白と黒では表現しきれないものを、色を使って、表現しています。

極光 オーロラ

先生にとっての書とはどのようなものでしょうか?

日本文化を後世に伝えていきたいという思いが一番強いです。書道界でもだんだん忘れられてきたことがたくさんあるので。お弟子さんたちには、中国とか日本の古典の臨書を書かせています。日本の場合、和紙と墨を使って書いたものは、平安・奈良時代のものも残っています。例えばそれらが失われるようなことがあっても今、現代の我々の臨書作品が残っていけば、昔こんな作品があったのかと後世まで伝えることができるのではと考えています。その為には本物そっくりに複製を作るという気持ちで臨書することをすすめています。

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