世界のバイクメーカー各社にブレーキディスクやスプロケット(歯車部品)を納入し、レース用部品も手掛けるサンスター。約70年にわたり磨き続けてきたブレーキ技術を背景に現在はカーボンニュートラル(CO₂排出実質ゼロ)実現に向けた取り組みを深めています。その象徴となるのがNaturide(ネイチャーライド)シリーズです。Nature(自然)とRide(乗る)を組み合わせたネーミングには、自然環境への配慮と確かな制動性能の両立という思いが込められています。Naturideの開発に携わるサンスター技研 MC事業部の品川佳範さんに、開発の舞台裏と込めた思いを聞きました。
世界的に環境意識が高まる中、サンスターは自社事業を通じたカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー(資源循環型経済)への貢献を目指し、2022年に環境対応ブレーキディスクとパッドの開発をスタートさせました。
左から開発に携わった 吉田正志さん、品川佳範さん、金綱賢さん
品川さん率いるチームが注目したのは、ブレーキディスクの”焼き入れ工程廃止”。この工程はブレーキディスクの強度や耐摩耗性にとって従来品では重要とされてきた工程である一方、CO₂を多く排出する工程としても知られていました。当初は、焼き入れ工程廃止の実現可能性についてさまざまな意見がありましたが、品川さんはこう振り返ります。
品川:
肯定的な意見ばかりではありませんでしたが、それがチームの心に火をつけるきっかけになりました。常識を覆してこそ価値ある取り組みになると信じ貫いたことが、この製品につながったと思っています。
一般的なブレーキディスクにはパッド摩耗粉の除去や放熱を目的とした貫通孔が設けられていますが、焼き入れを行わない場合、材料強度の観点から貫通孔を起点としたクラック(ひび割れ)の発生が懸念されます。そこで貫通孔の代わりにディンプル孔(表面の小さなくぼみ)を採用することで、クラックへの耐久性とパッドクリーニング効果の両方を確保しました。中でも最大の難関だったのは、焼き入れ工程がなくても使用できる材料の探求です。参考にできるデータが存在しない中、試行錯誤を積み重ねました。同時に、それに組み合わせるパッドの処方にも苦労しました。まずは一般的なパッドの摩擦材(摩擦の力を利用して減速・停止させるブレーキパッドに含まれる成分)に半分ほど含まれている銅を使用しない配合素材にしました。これにより環境負荷の懸念される銅の摩耗粉の発生を抑えながらも、素材の配合を見直すことで耐熱性を確保することに成功。環境と性能を両立させた製品「ローダストブレーキパッド」が完成しました。
ブレーキディスクにディンプル孔を施すことや、パッドに銅を使用しない技術は、以前よりサンスターが培ってきたものです。品川さんはこれを「過去の技術との掛け算」と表現します。積み上げてきた技術力が、環境配慮という新たな課題に応える力となりました。
現在、環境対応ブレーキディスクとローダストブレーキパッドは、スズキ株式会社が「カーボンニュートラルなど環境負荷低減への挑戦」をテーマに掲げる「チームスズキCNチャレンジ」に採用され、2024年より鈴鹿8耐に3年連続で参戦しています。2026年大会ではチームの過去最高順位となる7位入賞にも貢献しました。レースでの初採用から3年、毎年継続的な製品改良を重ね、過酷なレース環境で、製品の信頼性と性能を証明し続けています。
現在はレース専売品として展開するNaturideシリーズですが、今後は一般市販品としての展開も視野に入れています。さらに二輪車にとどまらず、小型四輪を含むモビリティ領域へのカテゴリー拡大やグローバル展開も見据えています。多方面から寄せられる要望に応えるべく、顧客の望む仕様の実現に向けて検討を重ねながら、仕入れ先や協力メーカー、顧客を含めたサプライチェーン全体で取り組みの輪を広げていきたい考えです。
品川さんはNaturideへの思いをこう語ってくれました。
品川:
乗り物は暮らしや産業を豊かにしてきました。しかし、その発展の一方で、環境への負担という課題も生じています。Naturideの取り組みがきっかけとなり、環境配慮がサンスターの新たな価値軸として加わることで、社会に必要とされ続ける企業でありたいと考えています。このようなモビリティの変革に貢献できることに、大きなやりがいと誇りを感じています。
積み重ねてきたサンスターの技術力と、環境への責任。その両方を背負ったNaturideシリーズの挑戦は、これからも続きます。
サンスターの環境対応ブレーキディスク・パッドが鈴鹿8耐上位入賞に貢献
サステナビリティクリップ編集部 M.U.