自然災害が大型化し発生頻度も増えるにつれ、防災の考え方が変わってきました。そんな中、私たちは日常の暮らしの中でどんな備えをし、何に気をつければ良いのか。防災のスペシャリスト、国崎信江先生に話を伺いました。
アップデートすべき防災の考え方はありますか?
防災を考える上で、いま一番大切にして欲しいのは「生活防災」という考え方です。防災用品というと、災害が起きた時のために準備しておくものと考えてしまいがちですが、実は、日々使っているものを災害時に役立てるという考え方の方が実践的です。ふだん使っていないものを、災害時にすぐに使いこなせるかと言えば疑問ですよね。できるだけ使い慣れているものを防災用に活用する方が合理的です。たとえば避難袋に入っているビニール製のレインコート。両手が使えるので傘よりは優れてはいますが、使用後に干したりできない避難所などでは、丸めて放置することになり、内側までビショ濡れのビニールのコートを、もう一度着用しようと言う気にはなれないものです。でも、ひと払いしただけで水が落ちるアウトドア用の撥水ウェアなら、 いつも快適。避難所内で防寒グッズとしても役に立ちます。大雨や洪水で避難警報が出たときは、水が入ると重くなり歩きづらくなる長靴ではなく、動きやすい運動靴を、というのがこれまでの常識でしたが、私のおすすめはマリンシューズです。避難所で濡れた靴を乾かすのは容易ではありません。濡れた靴を履く不快感を考えると、できるだけ速乾性のある素材のシューズを選びたいものです。
コロナ禍、防災や避難の考え方はどう変わりましたか?
内閣府の調査によると、防災に対する国民の考え方はこの10年で、公助から共助へ、さらには共助から自助へと変わってきました。またコロナ禍によって、避難所が密になるリスクを避けるために、多くの自治体は在宅避難や分散避難を推奨するようになりました。スタンダートになりつある自宅での避難。その際に、役立つものをご紹介しましょう。ふだんは防犯用として使っている、夜に光るソーラー充電式ガーデンライトは、停電時には屋内では頼もしい存在です。充電式の掃除機や非常用の足元灯なども含め、充電や蓄電できる機器はとても有能な防災品です。災害時も、いつもと同じように暮らせるようにという基本に立てば、普段から、大容量の水やトイレットペーパーなどのまとめ買いも、立派な備蓄です。ベランダや庭の家庭菜園は、考えてみれば食糧の備えと言えます。
情報の取得の仕方も変わってきました。GPSの発達で、災害情報がピンポイントで得られるようになり、東京といった広範囲の天気予報ではなく、いま居る場所で、いつどれぐらいの量の雨が、何時間降るのか。リアルタイムな情報は、避難行動の判断に役立ちます。ちなみに我が家では、1時間の雨量が40ミリを超えると、家族みんなで家から近い24時間営業の健康ランドに避難するルールを決めています。安全で快適な場所で過ごせば、家族の楽しい想い出となり、災害時を怖くて不安な出来事にしなくて済みます。
国崎先生が推奨する災害に備えるユニークな方法とは?
避難訓練と言えば、職場や地域で行われることがほとんどですが、防災上、ぜひ実施して欲しいのが、自宅の安全点検です。耐震性が低くて外に逃げた方が安全なら、避難導線に邪魔なものを置いていないか。そういう視点も重要になってきます。とくに火やガスを使っているキッチンには、さまざまな危険が。包丁などの刃物や陶器・ガラス製品などの割れ物、食器棚や冷蔵庫の転倒や、電子レンジの落下など、地震発生時、キッチンにあるものは凶器になりかねません。キッチンからキッチンの外へは、1秒以内に逃げるイメージを持っておきましょう!
避難袋や防災袋、災害時用に特別な袋を持ち出すより、災害時に必要なものを、ふだん使っているバッグに入れて持ち歩く方が合理的。私はいつどこで被災しても大丈夫なように、さまざまな防災グッズを持ち歩いています。たとえば、ソーラーパネル。リュックにつけて歩くだけで、タブレットやスマートフォンの充電ができます。またハブラシのセットや液体ハミガキも必ず持ち歩いています。数日ぐらい歯みがきをしなくても、それほど問題ではないという方もいらっしゃいます。でも、災害時に誤えん性肺炎で亡くなる方がいるのは、お口のケアが行き届かないことが原因の1つと言われています。水が自由に使えない場合でも、お口を清潔に保てるように備えておくことが肝心です。自然災害が増える中、自治体の防災備蓄品への液体ハミガキの需要が伸びているのはそのためです。
国崎信江先生
危機管理アドバイザー。株式会社危機管理教育研究所代表。国内外の被災地での支援活動を通して防災対策を提唱しており、国や自治体の防災関連の委員を多数歴任。