災害時のお口の健康維持の重要性について長年研究し、支援・啓発活動もされているときわ病院口腔外科部長・足立了平先生。日常のお口の健康意識が災害時の健康にも影響するといいます。災害時にも健康を損なわないために、私たちは何に気をつければ良いのか。阪神淡路大震災に遭われたご自身の経験も踏まえ、お話いただきました。
神戸市健康局歯科専門役
ときわ病院口腔外科部長
足立 了平 先生
お口の衛生状態の悪化が肺炎を招きます。
私は27年前の阪神淡路大震災を、被災者かつ歯科医として経験し、自分の身の回りの復旧などは後回しにして地域の歯科支援に奔走する中で「意外な事実」に気づきました。それは、震災で生き延びたにもかかわらず、その後の避難生活で体調を崩して亡くなる高齢者が多くいたことです。4人に1人は肺炎が原因、中でも誤嚥性肺炎が多くを占めていました。その引き金の1つが、お口の衛生状態の悪化にあるということでした。それ以来、度重なる大規模災害の度に歯科支援に駆けつけ、お口のケアの重要性を訴え続けています。今では、多くの自治体、医療関係者が「災害時のお口のケアは命を守るケアである」と認識し、誤嚥性肺炎による災害関連死を減少させる活動を進めています。しかし、肺炎で亡くなる方はまだまだ少なくありません。
災害時、とくに高齢の歯周病患者は要注意。
誤嚥性肺炎は、食べ物やだ液などが、食道ではなく誤って気道に入り、だ液に含まれる口の中の細菌が肺に流れ込んで炎症を起こして発症します。実は、これらの原因菌には歯周病菌が多く、歯周病の患者は、病原性の高い菌の種類と量が多いため、誤嚥した際に炎症を起こしやすくなります。歯周病は、痛みなく進行するため、自分では気づきにくい病気。また、誤嚥性肺炎はお口の機能が弱りがちな高齢者に多いのですが、一度の誤嚥で発症するのではなく、誤嚥を何度か繰り返した後に発症します。災害時は、断水などで歯みがきの頻度が減ることで細菌が増えやすい状態にあります。食べ物や睡眠が不足して体力が弱まると、お口の機能も弱り、増加した細菌を誤嚥しやすくなります。つまり、歯周病患者で普段から誤嚥を繰り返している方ほど肺炎発症のリスクが高いと言えます。
日頃のお口のケアが、肺炎リスクを軽減します。
災害時に誤嚥性肺炎にかからないためには、平常時からお口の中を清潔に保ち、お口の不具合を感じなくても定期的に歯科医院で歯周病の有無を診てもらうことが重要なのです。近年はコロナ禍で、外出や人に会って話をする機会が減る傾向にあり、足腰だけでなくお口まわりの筋肉も弱りがちで、ますます誤嚥しやすい環境にあります。また近年、台風や集中豪雨が大型化し、災害発生の頻度も高まっています。ぜひ、普段からお口の健康を大事にしてください。