INTERVIEW

自治体の防災担当の方に伺いました。

どうして避難所に
液体ハミガキを備えはじめたのですか?

緊急時に避難所を開設する自治体では、それぞれ防災計画や備蓄計画に基づき、さまざまな物資を備えています。その多くは、飲料水や食料、毛布など、緊急性の高いものですが、中には、液体ハミガキを備蓄している自治体があります。いのちを守るための備蓄に関する強い思い。そこには、自治体としての責任がありました。

INTERVIEW 1

肺炎などの一因になる口腔衛生。
避難所でのリスクを軽減するために、
液体ハミガキの備蓄は重要です。

行廣勝哉 様

渋谷区

危機管理対策部 防災課長
行廣勝哉 様

渋谷区には、いま23万人の区民がいます。首都直下型地震では、約4万人の避難者があることを想定していますが、その方たちへの3日分の水・食料の支援が、備蓄の基本的な考え方です。たとえば水ですと1日1人2リットル、計24万リットルを常備しています。食料品の備蓄にはとくに力を入れておりまして、特徴的なものとしては、1箱に1日分の食事をまとめた「1日3食セット」というものがあります。歯の弱い方やお子様でも食べやすいレトルトリゾットやクッキーが入っており、そのすべてが食物アレルギー特定原材料等27品目不使用の食品です。いずれも個別包装になっていて、今や感染症予防の観点からも有効な備蓄と言えます。その他、粉ミルクやベビーフード、さらにはペット用フードなども準備しています。

区内の避難所すべてに備蓄

そんな中、平成25年からは、液体ハミガキが備蓄に加わりました。東日本大震災など全国で大きな災害があるたびに、渋谷区の職員も被災地に応援に行きますが、どの避難所でも感じたのは、口腔衛生の重要性でした。歯みがきができないことが、誤嚥性肺炎やさまざまな疾病の原因になることがある。そんな学びから、水が使えない状況でも使用できる液体ハミガキを備蓄しておく必要があるのではという話になりました。保健師さんや区の歯科医師会からの要望もあり、早期に実現できることになりました。

非常食などを保管する倉庫

首都直下地震への備えはもちろんですが、台風や豪雨など災害が頻繁に起こる昨今、避難所での生活が長期化することも見越して、口腔ケアの重要性はますます高まるのではと考えており、今では区内33箇所の避難所すべてにおいて、液体ハミガキを備えています。区民向けの防災マニュアルにも、家庭で備えておきたいものリストに、液体ハミガキを挙げて、口腔衛生の意識を高くもってもらうように努めています。停電を想定して、スマホ充電用の大きな蓄電池を購入したり、新型コロナウイルス感染予防に非接触型の体温計やフェイスシールドや防護服を準備したり。区民のいのちや健康を守るために、今後も、時代に合った備蓄を考えていきたいと思います。
(インタビュー:2021年2月19日)

長期保存が可能な液体ハミガキ
INTERVIEW 2

防災備蓄品を常設展示。
災害時のオーラルケアについても
啓発しています。

山下義武 様

広島県坂町

教育委員会事務局 生涯学習課
坂町立町民交流センター所長
山下義武 様

坂町では、町の備蓄計画に基づき、食料を中心に備蓄品を揃えています。アルファ化米2,000食、スティックパン100食、乾パン1,600食、2リットルの飲料水が1,800本、さらには毛布2,000枚など、町の人口13,000人のうち2,000人が1日生活できるよう町内最大の避難拠点でもあるこのホールに備蓄しています。

ホール3階にある備蓄倉庫

液体ハミガキは、2,000人が3日間オーラルケアできる量という目安で、平成29年9月から備蓄するようになりました。導入したのは、5年の長期保存が可能な「防災備蓄用液体ハミガキ」。日本ではじめての採用でした。選定された一番の理由は、やはり避難者の健康への配慮です。東日本大震災の際に避難された方が、歯みがきができない辛さ、不便さを訴えておられましたし、歯みがきできないことから生じる歯周病などの健康被害がでないようにという思いもありました。

2階ロビー防災展示コーナー

実際この備蓄が、平成30年7月の西日本豪雨災害の際に役立つことになりました。災害発生後2〜3日は、町民の皆さんも水や食料のことしか考えられない状況でしたが、避難生活が長引くと、歯みがきできないことがストレスになりはじめます。避難所にいらっしゃる方はもちろんですが、液体ハミガキは、自宅が断水でお困りの方へもお配りすることで、非常に喜んでいただきました。全国からいただいた支援物資は、どうしても水や食料品に偏りがちですので、自治体として口腔ケア製品を備えておくことの大事さを、あらためて痛感いたしました。ホールでは平成26年9月の開館以来、備蓄品の常設展示を行っていますが、災害時のオーラルケアの重要性についてもパネルで紹介しており、施設利用される町民の方や防災学習で見学に来られる小中学生のみなさんが、防災行動を考えるきっかけになればと考えています。
(インタビュー:2021年2月19日)

平成30年7月豪雨災害の様子

住民の多様性を尊重し大切している区の方針が、そのまま防災備蓄品の多様性にも出ていた渋谷区。災害を経験したことから、備蓄品だけでなく日頃から防災意識を持つことの啓発にまで力を入れていた坂町。 それぞれ防災備蓄に関して、特色がありましたが、オーラルケアに関しては、共通して避難生活が長引く際への健康被害への懸念という意識を持たれていました。今回ご紹介した2つの自治体以外にも、東京都港区、長野県飯田市、静岡県清水町、京都府笠置町、奈良県曽爾村など、全国各地で液体ハミガキが防災備蓄に採用されています。オーラルケアについても考え準備しておく。これが、これからの防災備蓄の常識になりつつあるようです。

災害時のオーラルケア方法について