歯周病菌は血液中に入り込む!?
慢性化した歯周病が、
細菌の侵入門戸をつくる。
口腔は、硬組織の歯牙が軟組織の中に植立するという解剖学的特徴を持っています。歯牙は歯肉上皮を突き破って口腔内に露出しているため、上皮というバリアの連続性が失われていることにもなるのです。そして、歯肉と歯牙の境界部には歯肉溝が形成され、ここが口腔細菌の住処となっています。
歯周病は、歯肉溝へのジンジバリス菌など嫌気性菌を主体とした細菌感染で引き起こされ、局所の感染症として発症したものが慢性の経過をたどるもの。歯周炎が進行すると上皮のバリアがなくなり、形成された歯周ポケット内の細菌塊と生体が直に接することになります。28歯すべてに5〜6mmの深さの歯周ポケットを有すると仮定した場合、生体が細菌塊と接する表面積は大人の手のひらほどの約72㎠にも及ぶのです。こういった状況下では病的上皮を介して細菌塊が常に接するだけではなく、上皮も炎症によって潰瘍を形成し、細菌が組織内に侵入しやすくなります。

また、細菌感染で引き起こされた局所の炎症巣からは、蛋白質分解酵素や内毒素など、さまざまな病原因子が遊離。炎症や骨の吸収が引き起こされ、これらの物質が血液中に侵入すると他の臓器で疾患を誘発する危険因子になると考えられています。動脈硬化病変から歯周病菌のDNAが検出されたという事実も、このメカニズムを示す要因ともなっているのです。歯周病はもはや、口腔内だけの疾患でありません。歯周病菌の侵入門戸を防ぐためにも、日々の口腔ケアや早期治療はもちろん、ひとりひとりのオーラルヘルスへの意識改革を加速させることが重要だと言えます。
※参考文献 信州医学雑誌/2003年 51巻5号 273~280頁 綜説「口腔内潜在感性感染と口腔ケア」
https://core.ac.uk/download/pdf/148769531.pdf