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「がん治療を支える歯科の介入~食道がん手術の周術期における口腔ケアの重要性~」(1)

静岡県立静岡がんセンター 食道外科部長
坪佐 恭宏 氏

侵襲が大きく術後合併症発症率の高い、食道がん手術

食道がんの治療は、内視鏡的治療、外科手術、放射線治療などの「局所療法」と、抗がん剤治療などの「全身療法」に大きく分けられます。がんが原発巣におさまっている状態、つまり基底膜を破っていないか、あるいは少しだけ破っている場合には、内視鏡的にがんを切除することができ、非常に侵襲が少なく治療できます。しかし、がんが基底膜を破り原発巣に近いリンパ節に転移してしまうと外科手術が必要となり、さらに運悪くがん細胞が血流に乗って肺や肝臓、骨などに遠隔転移してしまうと局所療法の対象からは外れ、抗がん剤などの全身療法が選択されることになります。私は、原発巣近くのリンパ節転移まで、ステージでいうとⅢ期までの患者の局所療法を担当していますが、がん細胞が原発巣にとどまっている患者は少なく、リンパ節転移を併せ持った方の外科手術を多く行っています。

食道がんの外科手術では、頸部、胸部、腹部の3つの領域にあるリンパ節を予防的に切除する「3領域リンパ節郭清」が重要とされています(図1)。これは開胸・開腹をして食道、首・脇・お腹のリンパ節をすべて摘出したあと胃袋を食道の位置まで持ち上げるという、大がかりで、消化器がんの手術の中でも侵襲の大きな治療です。したがって食道がん手術は、術後の合併症が多い、術後も長期生存は難しく退院できずに亡くなる人が多いというイメージが医療関係者の中でも強く、私自身も研修医の頃はこのような印象を持っていました。

図1:食道がん手術:3領域リンパ節郭清

1990年代後半の食道がん手術の術後合併症発生率は、縫合不全や肺炎が10~30%程度であり、合併症なく退院できる患者は30%程度しかいませんでした。現在でも食道がん術後の合併症発症率は約70%であり、そのうち最も多いのが呼吸器合併症で、術後在院死亡の原因としても重要です 1)- 6)。その一方で、肺炎の発症を予防するには口腔ケアが有効だというデータが1980年代前後から2000年初頭にかけて数多く発表されています。これを受け、静岡県立静岡がんセンター(以下、当院)では2002年の開院時から、頭頸部がんおよび食道がんの周術期における口腔ケアと呼吸器リハビリテーションをクリニカルパスに組み込み、術後肺炎の予防に取り組んできました(図2)。

図2:2002年開院当初の胸部食道がん周術期パス