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「ここまで進んだ『がんの医科歯科連携』とこれからの課題」(1)

静岡県立静岡がんセンター 歯科口腔外科部長
百合草 健圭志 氏

がん治療における口腔ケアの重要性

がんがようやく「不治の病」から「治る病気」となり始めた1980~90年代のがん治療は、患者の命を救うことが最優先され、療養生活の質は顧みられないのが実情でした。しかし、2000年代以降は、単にがんを治すだけでなく、患者とその家族の苦痛を軽減し療養生活の質を維持する「患者を支える治療」も重視されるようになってきました。この患者を支える治療は「支持療法」と呼ばれ、疼痛・症状の緩和治療と副作用対策として行われ、がん治療時の口腔ケアもこの支持療法に含まれます。支持療法は患者QOLの向上のみならず、生命予後にも好影響を与えることがわかってきました。2010年の肺がん患者を対象とした臨床試験では、早期から支持療法(緩和ケア)を併用した群は、がん治療だけを行った群よりも生命予後が延長したと報告されています 1)。

がん治療時にはさまざまな口腔合併症が発現します。その代表格が口内炎(口腔粘膜炎)です。舌や口唇に口内炎ができると痛みで食事が取れなくなり、体力の低下につながります。また口内炎部から口腔内の細菌が侵入し、全身感染症である敗血症になりますし、誤嚥性肺炎の多くは口腔細菌が原因です。抗がん剤の使用による骨髄抑制・免疫抑制による易感染状態の患者では、口腔内細菌を原因菌とした歯性感染症や顎骨壊死などの合併症も問題となっています。このような状況では、医師の判断や患者自身の希望により、治療の休止や中止を余儀なくされることも多く、治療の完遂が難しくなり、治療成績の低下につながってしまいます(図1)。

そこで重要になるのが口腔ケア(歯科支持療法)です。口の手入れをしっかり行うことは合併症の原因である口腔細菌の異常増殖を抑え、口と歯を健康に維持します。その結果、口腔合併症の予防や軽減につながり、がん治療を予定通りに行うことが十分可能となります。がん治療時の口腔ケアは、がん治療を確実に遂行するために、またがん治療に伴う口腔症状を緩和し、患者の苦痛を軽減するために、なくてはならない支持療法と言えます。

図1:支持療法の重要性