第66回日書展受賞者 吉田菁風先生

サンスター国際賞受賞 吉田菁風先生インタビュー

受賞作

「我忘吾」

「我忘吾」

今回の作品に蘇東坡の詩の一節である「我忘吾」を選ばれた理由は?

とても良い言葉だと感じたからです。筆を持つ時には無心であり、ごく自然に書きたいと願っていますし、日常生活でも「忘我」の境地はあこがれるものです。

吉田菁風先生

題材を選ばれるのは、言葉の意味からでしょうか?それとも字の形からなのでしょうか?

私は、意味を大切にしています。言葉の意味に魅力を感じて作品を書くことが多いですね。

漢字の作品を書かれることが多いのですか?

私が書く作品は、すべて漢字です。その中でも5文字以内の少字数の作品を多く書いています。漢字は、良い線が引けるかどうかが大切です。少字数の作品は、その線が一目瞭然で表れますから、とても鍛えられます。線を「忘我」の境地で引けるように日々修行です。

漢字の魅力やかなとの違いはどんなところにありますか?

特に少字数の漢字作品には、絵画的要素があるかもしれませんね。少ない文字で全体のバランスをいかに見せるか、表現の幅が広いように思います。一方、かなの作品にはリズムや余白の流れのような音楽的要素があるように思います。

今回の作品で苦心された点は?

「我忘吾」は、いずれも画数が少ない漢字です。画数が多い複雑な文字は、まとめやすいことがありますが、画数が少ない単純な字ほど難しいものです。少ない画数の文字で納得できる線が引けるのか、いかに動きを出すのかが苦心したところです。

表現の部分でのポイントは?

作品を書く際には、書体を決め、紙を縦にするのか横にするのかを決め、全体のイメージを作ります。今回の書体は、横に長い扁平の隷書(れいしょ)で紙は横です。この言葉の重みを表現するには、隷書体しかない。後は、自分のイメージどおりの表現ができるよう気合を入れて書くだけです。 作品を書く時は、毎回そうなのですが、書き終わった後に、この作品以上のものは書けないな、という感覚的なものがあります。自分が納得する作品とはそういうもののようです。

書道を始めたきっかけは?

小学生になった時、母の影響で書道を習い始めました。その先生が、昭和63年にサンスター国際賞の前身であるオリベッティ国際賞を受賞された竹石古谿先生でした。この最初の師との出会いが私にとってとても大きく、今日まで書道を続けてきた礎になっています。

吉田先生は、35年間、教員として高校で書道を教えられてきたそうですね。

はい。職業と書道が密接にあるという幸せな環境でした。
私自身、高校時代の恩師が竹石先生とは、全く違った書風でした。その教えを受けて、視野がぱっと広がり書の世界の魅力を新たに感じた時期でした。また、互いに競い合える同級生とも出会い、よき高校時代を過ごしました。

生徒のみなさんへ教える際に心がけていたことは?

まさに、「教えることは学ぶこと」。生徒達は自分の鏡です。生徒を見て気づき学ぶことがたくさんありました。
授業で心がけたことは、生徒は、皆書家になる訳ではありませんから、書道の「楽しさ」を教えたい。しかし、その一方で、うまく書けないという厳しさを乗り越えて自分の納得するものが書けた時の達成感を感じてもらいたいと思っていました。

最後に今後の抱負をお聞かせください。

これからも一作一作、心を込めた作品を書いていくことが第一です。また、古典が好きなので、良い作品を見る目を鍛えていきたいと思います。「眼高手低」という言葉は、目を鍛えると自然に手がついてくる、という教えです。王羲之(おうぎし)や空海の作品を見つめて、「自分の書を作る」ことを追求していきたいと思っています。

吉田先生ありがとうございました。
受賞、おめでとうございました。

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