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Interview vol.1

飯島春美先生プロフィール

1936年10月9日生まれ。國學院大學文学部卒業。師は父・飯島春敬。1989年オリベッティ国際賞受賞。

現職
(財)日本書道美術院理事長、(社)書芸文化院理事長、
(財)毎日書道会理事、毎日書道展審査会員
(社)全日本書道連盟理事、日本詩文書作家協会副理事長

平安時代の作品 小野道風筆「屏風歌土代」

「さ(散)くらち(遅)る(累) このした(堂) 風は(盤)さむか(可)ら(羅)て(天)
そらにしられ(禮)ぬ 雪ぞ(所)ふ(布)りけ(計)る(流)」

今日は先生のご自宅で作品を見せていただくということで、楽しみに参りました。
ご紹介いただく作品は、春の気配を感じさせる今日にぴったりということですが、この作品に書かれている歌はどんな歌ですか?

「桜の花が散る木の下を吹く風は寒くはなくて、空では見ることのできない雪が降っていることだ」という意味で、拾遺和歌集に収められている、紀貫之の歌ですね。平安時代の三蹟・小野道風が筆者といわれています。変体仮名といって、現在使用されている「平がな」と違う字源を用いて表現しているので、今の人たちには読むのが難しいかもしれないけれど、意味がわかると、情景がパッと頭の中に広がるんじゃないかしら。

先生が「好きな作品」として、この書を選ばれたのはなぜですか?

だって、いいでしょう?(笑)まず、線そのものがとても純粋。私たちは、時代を経て、良くも悪くもいろいろな線を見ているから、なかなかこういう線は引けないの。この作品は、線がとげとげしていなくて、ふぁーっと全体に流れるように書いているわけね。仮名の線の美しさを、「連綿遊糸」(※糸が遊ぶようにつながる)というんですけれど、まさにそのとおり。この作品が書かれた平安時代に入って、かな文字がこうして“つづけ文字”というか、長く続いて絶えない書表現、すなわち連綿遊糸が確立されたんです。
歌の散らし方、墨の強弱も絶妙だなと思います。紙の「白」と、墨の「黒」とのバランスがいいし、墨のつけ方もいい。潤筆(たくさん墨がついている状態)から、徐々に渇筆(筆が乾いた状態)になって、そしてまたちょうどよく墨をつけてあげている。そういうことのすべてが、この作品の「景色」になっていて素晴らしいのね。

古典には、現代の書にとってもお手本になる線や表現があるんですね。

私は、基本的に「好きな書」とお尋ねがあれば、やはり古典を挙げますね。今から一千年も前にすでに、こんなデリケートに美しく文字が書かれたということを思うと、日本人の感性って豊かだなと思うの。墨の色を選んで、濃淡をみて、紙の条件を考えて、筆の質と種類を見て、書の流れというものを大切にして・・・そういうものの考え方、繊細さを感じることができるのよね。
もうひとつ言うと、これは掛物になっていますけれど、色の取り合わせも美しいし、この書が書かれた時代とか、書き手の位の高さとかにあわせて、とよく見えるのは、女の人だけじゃないのよ(笑)。
さらに、今日はこの歌に合わせて、中国の俑(お棺に入れる副葬品)を飾りました。静かに散りゆく桜を見ている美しい女性の姿。いいでしょう。景色になるでしょ。
書自体には、絵画のように色彩や具象的な形はないけれど、文字だからこそ、受け止める人それぞれの感じ方があるわけね。だからね、今日は主(あるじ)の私が、皆さまへの心尽くしとして、大好きなこの掛物をかけて、散りゆく桜の花びらの様子に、亡き御方の栄華をしのぶ麗人の俑を添えたわけです。一幅の掛物と小さなお人形が、情緒的な雰囲気を現代の私たちに、充分語ってくれるってわけです。

作品解説:小野道風筆「屏風歌土代」
拾遺和歌集収載・春歌・紀貫之の歌。「土代」とは、下書(したがき)の意である。その頃、屏風絵に貼る色紙形に和歌を書くための下書である。
本紙寸法:縦15.5cm・横22.6cm。当時としては、字も紙も大きく、珍しい一作。

古筆(こひつ)とは
古人(いにしえびと)の筆蹟をいう。聖徳太子(飛鳥時代)の頃より安土桃山時代頃までに、日本人が書いた(と伝えられている)書の肉筆の名品である。内容には、経、詩文、歌集、消息、古文書、日記、記録、物語等がある。