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様々な分野で生き生きと活躍されている女性たち。各分野のプロである彼女たちの目から見た、健康、ライフスタイル、キャリアについて、広報の女性スタッフがお話を伺うインタビューシリーズです。 >> インタビュー一覧
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Interview vol.3 エッセイスト 岸本 葉子さん (後編)
 
自分のために“いいとこ取り”
「がんと心」というテーマに取り組まれようと思ったのは、がんに向き合った時に、病気そのものだけではなくて、生活すべてに関わってくるとお考えからですか?
はい。特に、がんはある意味で慢性疾患で、医療の恩恵を受けて比較的長い間付き合うことになるので、最初の治療が終わった後、普通の社会生活に戻ってから、再発進行の不安とか死の不安を抱えながら日常生活していく期間が結構あるわけですよね。その期間から治癒に向かう人もいれば、残念ながら終末に向かっていく人もいるわけなんだけれども。その最初の治療の時と、その治療が終わって、今申し上げたような日常に入っていく時で、経験の質が変わっていくんです。始めの治療は外に目標があって、どんな治療法があってどこの病院を選んでこの治療を受けようというような目標を決めていくんです。
最適なものを取り入れて。
はい。それが終わると、もっと内的な経験になっていきます。心の内側で、再発不安、進行不安、死の不安と、どう向き合っていくかっていうことが課題になるので、その外側にある治療法とかをターゲットにしていく期間と、随分質的に異なるなぁって感じたんですよね。がんで長く生きるというイメージがなかった頃は、最初の治療のところがすごく大事なんですが、その後の内的な経験の方も多くの人が抱えているっていうことに気がついたんですね。それで心っていう問題にだんだんに関心がシフトしていったんです。
対談集を出されていましたね。
私もがんの知識がなかったので、「サイコオンコロジー」という精神腫瘍学という研究が医学の中にあるんだということもほとんど初めて知りました。サイコオンコロジー=ターミナルケア、終末期医療のような印象があったんですが、実際はずっとがんとともにある分野なんだってことに私も初めて気づいて、私の実感にもすごく合っていたんです。特に今、日本では心に関心が持たれていますが、それがともすると患者とか家族を追い込むほうに働いてしまう。気の持ちようが良ければ病気は治る、という精神論とか、性格やストレスから病気になる、とか。その心と体の関係、病と心の関係というのが、心に関心を持たれる時代であるがゆえに正しくない捉えられ方をしてしまう可能性があるなという危惧を感じていたんですね。私も色々な人から、病気のことなんか考えたら治るものも治らない、というような励まし方をされるんです。その励ましの気持ちはすごくありがたいけれども、でもちょっと違う・・・という漠然とした違和感はあったんですね。では、心と病気っていうことを中立的に科学的に捉えた人からは、今何がわかっていて何がわかっていないんだということをすごく知りたくなったんです。
ああ、なるほど。
免疫力についても、多分そこにもう一つ「心」っていう要素が入るんですよね。食べているものの何が病気を治す科学的な立証ってさほど大きな要素にはならないっていうか・・・私も決して、人に私と同じことをしなさいと言う気はさらさらなくて、私はこれをすることで、体の健康が結果として保てなかったとしても、心の健康が保てたから充分だっていうような気持ちがあったんですね。
日常生活の中で心掛けていらっしゃることは何かありますか?
実は今ちょっと変わりつつあるんです。がんになる前もなった後もずっと変わらずに一つあったのが、「外相整わば内相自ら熟す」という、森田療法という神経症の療法の中の言葉なんです。これは日常レベルの実践で言うと、口角を上げるということだな、と思うんです。がんと関係なく、仕事の中でも、私生活の中でも、自分の気持ちが落ち込むことがありますよね。その時に、その落ち込みに関係なく、形はいつも口角を上げていると、落ち込みも自ずと形のほうに合って無くなってくるんです。ともすると、自分の心の状態が落ち込んでいると、「この落ち込みを何とかしなきゃ」と思って心を直接どうにかしようとするけれども、それって相当難しいことだし、ある意味で落ち込むのが自然だと思うんですよね。だから、心はもうそのままで、それこそ“ありのまま”でいいんだと放っておいて、そのかわり口角だけは上げておくっていう(笑)。
そうなんですか。まず形からっていうことですね。
30代の時に「ああこれはいい言葉だ」と思ったので、いつも机の引き出しに、それこそ文字通り“座右の銘”として書いて入れておいたんですね。端的に言えば、口角を上げることだな、と。特に30代後半からだんだん頬がたるんできていてるので、これはもう特に、集中して実践しようと思ったんです(笑)。
美容のためにも重要なエクササイズですよね(笑)。
がんになってからもずっと心がけていたんです。要するに、いつも上機嫌でいよう、ということです。ところが、最近禅の本を読み始めたら、心をどこか一箇所に固定しようとすることに無理があるんであって、心のおもむくままにすることこそ勧められるんだ、と書いてあって、最近はこの心がけが変わり始めているんです。
というと?
上機嫌でいようっていうのは緊張なので、もっと弛緩のほうに移していこう、という感じでしょう。自律神経って副交感神経と交感神経でできていて、副交感神経が優位の時がリラックスするって言いますよね。たぶん、我々働いている人間はみんなそうだけれども、どうしても交感神経が優位になっていると思うんです。しかも、上機嫌であることは、もしかしたら副交感神経を優位にすることとイコールじゃないんじゃないか、もう少しほかに、副交感神経を意識的に優位にする方法があるんじゃないかって。それで色々模索して、腹式呼吸を実践してみたり、カルチャーセンターの「和の身体技法」の授業を受けてみたりしています。この夏、その「和の身体技法」っていうカルチャーセンターのコースに、2回分で7千いくらか払って行ったんですよ。
え〜!カルチャーセンターですか。意外です(笑)。
動きやすい服装と、あれば扇と白足袋を持参って書いてあったので、トレパンとか、商店街で貰った扇子とか、その辺の靴下屋で買った先割れの白い靴下(笑)とか持って、能楽師の先生について、摺り足とか立ち方とかを練習しました。
腰を落として歩くんですよね。
すごく面白かったです。能楽師っていうのは20キロとかの重たい衣装をつけて、80歳になっても90歳になっても、悠々と、軽々と、ハツラツと舞っている。それを見る中で、インナーマッスルの使い方とか、呼吸とか、色々なことから、ああこれだから高齢になってもできるんじゃないかってことにヒントを見い出したそうです。私も、うまくこれからまた年を重ねていけるとしたら、信条として紙に書いて貼っておくような心との付き合い方じゃなく、体や呼吸みたいなものを通した心との付き合い方がヒントになるんじゃないかと、今すごく興奮してるんです。
今一番楽しいことっていうのもそれですか?
そうですね。例えば、身近な実践では腹式呼吸ってありますよね。息を長〜く、細く吐いて、吸う時はその反動で短く吸う。また、お腹をへこますつもりで長〜く息を吐いて、またそのお腹の戻る反動で息を吸う。これを繰り返すと、副交感神経を高めるっていうんです。「えぇ〜本当かな?」って思いながら、電車の中で、まだ会議で発言したこととかあれで良かったかしらとか頭を巡ってる中でやってみると・・・すごく面白いんです(笑)。
あぁ、わかる気がします。
漢方のクリニックで、私の横で二人の人が「やっぱり、がんになってからは生き方を変えなきゃ」みたいな話をしていたんですけれども、私は生き方を変えるなんてそんなにすぐにはできない。仕事もしたいし、あれもこれもしたいって、欲張りとか好奇心旺盛なのはなかなか変えられないんですよ。だから、生き方を変えようっていうよりも、それまでと同じ地下鉄に乗ってる間に腹式呼吸をしようとか(笑)、そういう身近な実践のほうがずっと取っ付きやすくていいんじゃないかなぁって思ってるんですよね。
心のことを考えながら、実践は体に行くという発想がとっても面白いですね。
面白いですね。しかも、筋トレをしましょうとか、エアロビクスで発散しましょうっていうんじゃない新しいメソッドであり、ある意味では自分が一番知らなかった伝統回帰のメソッドにいくのが、我ながら面白いなと思って。
体の中に元々あるものを呼び覚ます、というような部分もあるんでしょうか。
そうですね。たぶん、いろいろな潜在的可能性があるのに、自分の頭も体もごく一部しか使ってなくて、これが私っていうふうに狭く狭く規定してたんだろうなと思うんです。西洋医学の恩恵を存分に受けた私なので、どちらかを否定するんではなしに、それこそ相補的なものなのとして取り入れて行きたいですよね。
自分のために両方のいいところを利用していくっていう感じですよね。
西洋と東洋をもっと統合しましょうということが、色々な分野で言われていますよね。医学もそうだし、易経とコンピュータも二進法ですごく似てるとか聞きます。先端的になればなるほど、東洋と西洋との境がファジーになって、相共通することがあるんですって。まぁ、そこまでの研究は専門家にお任せして、自分という個人の単位の中でいいとこ取りをしていくのがいいのかな(笑)って、そう思っています。
ますます広がりを見せる岸本さんの世界。この冬にもカルチャーセンターに
通う予定ということで、またぜひお話を伺ってみたいと思いました。
岸本さん、ありがとうございました。
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