HIV(エイズウイルス)とともに生きる女性たちによるエッセイ集。
「わたしの帰る場所・わたしに返る場所」 / 奈央子
「私はお母さんがやりたいことを一生懸命やっているのがいいと思うよ。私も自分のことをいろいろがんばってるから、お母さんもやりたいことやったらいいよ。私はまだいろいろ可能性があるけど、はっきり言ってお母さんはもう40歳前だし、待ったり見過ごしたりしてたらやりたいこともできなくなるよ」
仕事やHIVのことで忙しくて家を離れることも多いし、休みになってもどこにも連れて行ってあげてなくてごめんねと言った私に、娘が返してくれたことばである。2人で久々に出かけたとき、車の中でこのことばを聞いて運転しながら泣いてしまった。無理して強がって言っているのではなくて、心から言ってくれていることがわかるだけに、すごくうれしかったし、成長したなあという感慨もあった。
そして、そんな大切な娘を家に置いていろいろなところに行けるのは、両親のおかげである。とくに母は、バタバタしている私にあきれつつも、そんな私をさりげなくサポートしてくれる。HIVのことで土日に出かけて帰ってくると、月曜日に仕事に着ていく服にちゃんとアイロンがあててあったりする。お弁当作りがちょっと面倒だな〜と思い始めた週半ばには、娘の好きなエビフライを夕食の揚げ物と一緒に作っておいてくれて「お弁当に入れたら?」と言ってくれたりもする。
20代半ばまでは、どこかはわからないけど「ここではないどこか」に自分の居場所があるような気がしていた。外に出て行けばそれが見つかると思っていた。けど、今はわかる。家族がいるところが自分の居場所だと。自分が帰る場所、自分に返って自分を見つめなおせる場所があるから、安心して外にも出て行けるし、がんばることもできる。家族は私の根っこだ。
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