HIV(エイズウイルス)とともに生きる女性たちによるエッセイ集。
「自分のカラダを好きでいること。」 / 奈央子
20代前半までとくに美容や健康に気を使ったことはなかった私だけど、HIV陽性がわかってから、これまで気にしなかった自分の体を初めて意識するようになった。
HIV感染がわかった1994年、メディアではHIV=死というイメージの映像が盛んに流されていた。やせ細った体、皮膚の疾患…。「感染してほぼ10年で発症して死にいたる」という一般的な説明も、当事者にとってはすごくリアリティがあるもので怖かったけど、それより何より、死ぬ前にそんなふうになってしまうのだと思うことの方がずっと恐ろしく思えた。
だから、1997年に病気の進行を抑える薬が飲めると知ったときはうれしかった。でも、それもつかのま、よくよく聞いてみれば大変な副作用があるという。吐き気や下痢、頭痛、悪夢といういかにも苦しそうな副作用ももちろん怖かったけど、発疹が出る、脂肪の代謝がおかしくなっておなかや背中に肉がつき、反対に腕や足が細くなる、頬がこけるなど、自分の見た目が激しく変わる可能性のある副作用が盛りだくさんだった。
結局、私は早くウイルスを抑えておく方を選んで、その時からもう10年以上、薬を飲み続けている。初めの薬の組み合わせのときは、食べても全く太らず、人生で最も軽い体重といううれしいおまけがついていたけど、毎日、吐き気とだるさに悩まされた。体重が増えないということが薬の副作用だとわかったのは、薬の組み合わせをかえた3年前。あっというまに数キロ体重が増えた。でも、飲み始めて1週間はすごい発疹が出たけど、そのあとは毎朝吐き気がして朝ごはんが食べられないことはなくなった。
幸いなことに、ちょっと色黒に見える程度に皮膚が黄色いほかはとくに副作用はなく、太り続けることもなく今まできている。「奈央子さん、色が黒いっていうか黄色いよね」と言われることもあるけど、「黄色人種だからね〜」と切り返す技も覚えた。
これまで10数年の経験から学んだことは、自分の見た目が変わるということは、想像以上に自分の自尊心に影響を及ぼすということ。もしも、見た目が大きく変わってきていたら、薬を飲み続けていられなかったかもしれない。だからこそ、自分でできることはちゃんと気をつけていきたいと思う。それは、ダイエットをするとか、高い美容液を買うということではなくて、楽しくおいしくごはんを食べて、ちゃんと眠ること。がんばっている自分の体をそのまま好きになること。元気で過ごせることに感謝して、毎日、笑顔でいるということなんじゃないかな。
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