HIV(エイズウイルス)とともに生きる女性たちによるエッセイ集。
「お蔭様で」 / 綾
感染がわかってからは、「恋愛はしても結婚はしないだろう」と思っていたので、相手には多くを求めず、期待せず、いつも自分の気持ちを押さえ気味でした。彼(今の主人)と付き合ってからも、私はなかなかHIVについて打ち明けられず、時々ものすごく不安になる反面、その不安な気持ちに蓋をして、この幸せな時間を少しでも引き延ばそうとしていました。しかし、ついに告白しなければならない時がやってきました。「結婚しよう」と言われたのです。喜びよりも動揺のほうが大きかったような気がします。トイレで気持ちを整えて、「フーッ」、しかし口を開くと出るのは涙と嗚咽ばかり。ようやく「実は私、HIVに感染しているの」と言うと、彼は意外や意外、とびきりの笑顔で「そんな鼻くそみたいなこと気にするなよ」と即答してくれました。彼は、プロポーズをしたらいきなり号泣しだしたことに戸惑ったようで、「実は婚約者がいるの、なんて言われたらどうしようかと思ったよ」と冗談を交えながら、「それなら、結婚を急がなくちゃな」と言ってくれました。
そして今年、彼がくれた誕生日カードには「出会った頃は、30歳までなんてとても生きられないと言って、明るい中にも、どこか人生に悲観していて将来に期待を持てずに、悲劇のヒロインといった感じがありました。それが、今や30歳どころか○○歳の誕生日を迎えることになったのです。人生はわからないものです。なんにしても今日という○○歳の誕生日が無事に元気に迎えられて、良かった、良かった。本当に良かった。」と書かれていました。ありがとう!私も自分がこんなにも元気で普通のおばさんになっていようとは想像もしませんでした。お蔭様で、線の細い悲劇のヒロインは、いまや神経も体もまあるく太ーく生きてます。
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