HIV感染症(エイズ)の分野で先進的な研究を続けられている、イリノイ大学歯学部のジョエル・B・エプスタイン教授にうかがいました。
エイズと口腔ケア
日本では、歯科医の3割がHIV陽性者を診療したがらないという調査結果(※2)があります。
北米でも10年前まで同じ問題がありました。ほかの患者さんが感染を恐れたため、歯科医が診療を避けたのです。実際は、特別な予防措置や知識は必要なく、一般的な予防措置を実践すれば、歯科治療によるHIV感染リスクはありませんから、診療拒否をすべきではありません。
HIV陽性者を診療する上で、特に注意することはありますか?
HIV陽性者のために診療方法を変える必要はありませんし、歯科教育の現場でもそれを実践で教えていかなくてはいけません。手術が必要だとしても、よほど病状が悪化しているか、合併症を患っていない限り、治癒率も治癒に要する時間も変わりません。ケアする上での注意点も同じです。ただし、HIVやC型肝炎の治療薬で肝臓にダメージが出ている場合は注意が必要です。出血が問題だとしたら、標準的な検査と予備検査をしましょう。白血球の値が十分にあれば、抗生物質の追加投与などの手段は不要です。
歯科医の側にも特別な技術は必要ないということですね。
ただ、現在の歯科医には、感染症や腫瘍など、免疫状態を示す口腔粘膜のわずかな変化に気づく能力が不足しています。患者の年齢や他の病気にかかわりなく、歯科医としての視点のみに集中し、医学の複合的な知識は使わずに診察してしまいがちですが、これは今後の歯学教育の課題です。
北米では、歯科と医科の連携は行われていますか?
医科と日常的に仕事をしている歯科医は、連携の仕方がよくわかっていますよね。HIV感染が疑われる患者がいれば、適切な場所へ、適切な方法で、基礎情報を提供した上で紹介して、治療に結びつけることができます。総合病院などではうまく連携している例が見られますね。これも今後、歯学教育の中で重視すべき点です。歯科医自身が何もかも知っている必要はありませんが、知らないときにどうすればいいのかを知っている必要はありますから。
HIV陽性者の方々はどんなことに気をつけると良いですか?
一般の方と同じケアをしてください。少なくとも1日2回ブラッシングをし、フロスなどの歯間清掃具を使うと良いでしょう。歯周疾患に対してはHIV陽性者の方が罹り易いですし、ハグキに変化が出やすいので、特に歯間清掃具の使用はお勧めします。また、クロルヘキシジン(殺菌剤)入りのデンタルリンスも、酵母や菌の繁殖を抑え、歯肉炎やハグキの炎症を抑えてくれるので有効です。米国ではガンの患者にも同様の理由で使われています。
もう一つ重要なのは、歯科医との適切な関係作りです。患者自身の日々のケアで不足していることを上手に補い、適切なケアで口腔衛生を維持し、唾液腺の機能や感染症や腫瘍に注意を払ってくれる歯科医に診てもらいましょう。ただこれは歯科医に頼ることとは違います。まずは、患者自身が歯科医で推奨された予防方法を毎日実践することが大切だということを忘れないでください。
※1:
エイズ(後天性免疫不全症候群):HIV(エイズウイルス)が免疫細胞に感染し、免疫細胞を破壊して後天的に免疫不全を起こす免疫不全症のこと。
※2:
厚生労働科学研究費補助金「HIV陽性者の歯科診療受け入れと歯科受療の現状に関する調査より」(2005年3月)
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